ここでは、毛幹本体の構造と、外側を覆うキューティクルについて解説していきます。
毛幹の3層構造
ヒトの全身の毛の中でも、頭髪の成長は特に早く、1日0.3~0.4mmほど、1か月で1cmほど伸び、直径は30μm~120μm、平均で80μm(0.08mm)の太さになります。
毛幹は、外側から毛小皮、毛皮質、毛髄質と呼ばれる3層構造からなり、一般的にはそれぞれ、キューティクル、コルテックス、メデュラと呼ばれます。
▲毛幹の3層構造(引用:belgraviacentre)
毛幹の3層構造
・毛小皮(キューティクル):外側を覆う鱗状の層、毛の10~15%
・毛皮質(コルテックス):ケラチン結晶で満たされた層、毛の80~85%
・毛髄質(メデュラ):空洞が多く、太い毛にしか存在しない
キューティクルは、ケラチン線維で満たされた透明の鱗状の構造物で、これが幾重にも重なることで髪の内部を物理的・化学的刺激などから保護し、異物の侵入を防ぎ、髪に滑らかさを持たせます。
コルテックスは、ケラチン線維で満たされたコルテックス細胞が規則正しく縦に並んでいる毛の本体部分で、毛の強靭さとしなやかさの両方を作り出します。
メデュラは、毛幹が太く成長すると形成され、内部に空洞を持つため断熱作用を担うと考えられていますが、細い毛やくせ毛の人にはあまり見られません。
また、コルテックスやキューティクルの間には、細胞膜複合体(CMC)と呼ばれるものがあり、コルテックスやキューティクルどうしを繋げる役割を担っています。
毛小皮(キューティクル)
毛小皮は、「キューティクル」と呼ばれ、横100㎛、縦60㎛、幅0.4~0.5㎛ほどの、無色透明で、硬く、丸みを帯びた鱗状の形状をしていて、ケラチン線維で出来ています。
▲キューティクルの構造(引用:University of Portsmouth)
1枚のキューティクルが、毛幹の外周を1/2~1/3ほど取り囲み、5~10枚ほど瓦のように積み重なって覆うことで、毛髪内部を保護する役目を果たしています。
毛根部では10枚ほど重なっていますが、毛先になるにつれ紫外線や物理的刺激などで剥がれ落ち、毛先では5~6枚程度になり、人によっては完全に剥がれてしまっています。
キューティクルは、直接手で触れる部分のため、その状態でくし通り、手触り、ツヤ、髪のまとめやすさ、摩擦、静電気などに影響し、美容面で重要な役割を果たしています。
キューティクルは、コルテックスに比べて構成するアミノ酸にシスチンの割合が多く、柔軟性がないため、キューティクルの割合が多いと毛髪は硬くなります。
また、キューティクルは、湿った状態では物理的刺激によって破壊されやすいため、髪が濡れた状態でブラッシングをするとキューティクルを痛めてしまう原因にもなるのです。
キューティクルの層状構造
キューティクル1枚は、さらに5層の構造からなり、キューティクル細胞どうしは細胞膜複合体(CMC)によって接着され、そのCMCは3層構造からなります。
▲キューティクル細胞とCMCの層状構造(引用:University of Coimbra)
キューティクルは、外側から上小皮膜(エピキューティクル)、外小皮(エクソキューティクル)のA層とB層、内小皮(エンドキューティクル)、内層(インナー層)に分類されます。
CMCは、外側から下部β層、δ層、上部δ層に分類され、毛幹表面の上小皮膜の上には、CMCの上部β層が覆っていて、これを特に「F層」と呼ぶ場合があります。
キューティクルの一番外側の上小皮膜と内側の内層は、キューティクル細胞の「細胞膜」の部分であり、外小皮、内小皮はキューティクル細胞の「細胞質」の部分です。
また、文献によっては上小皮膜を「抵抗成膜」、外小皮A層を「A-層」、外小皮B層を「エクソキューティクル」などと呼称する場合もあります。
キューティクルの5層構造
上小皮膜(エピ)は、厚さ13nmの薄い層で、マクロフィブリル間充物質と似た非ケラチンタンパク質で、疎水性が高く、水を弾きますがますが、水蒸気や空気は透過させます。
上小皮膜はCMCの上部β層であるとも言われ、その表面に脂肪酸である18メチルエイコサン酸(18-MEA)が結合して、この部分を特に「F層」と呼ぶ場合があります。
キューティクルの5層構造
・上小皮膜(エピキューティクル):シスチン12%、疎水性が高い
・外小皮(エクソキューティクル)A層:シスチン35%、疎水性が高い
・外小皮(エクソキューティクル)B層:シスチン15%、親水性が高い
・内小皮(エンドキューティクル):シスチン3%、親水性が極めて高い
・内層(インナー層):シスチン12%、疎水性が高い
外小皮(エクソ)A層は、厚さ110nmで、シスチン含有量が35%と毛髪繊維内で最も高い「超高硫黄ケラチンタンパク質」であり、疎水性が非常に高く、水分を弾きます。
外小皮(エクソ)B層は、内小皮と入り組んだ構造をし、厚さ100〜300nm、15%のシスチンを含むケラチンからでき、比較的親水性が高いため、水分を吸収しやすい層です。
内小皮(エンド)は、同じく外小皮B層と噛み合っていて、厚さ50〜300nm、シスチンが僅か3%と毛髪中で最も少ないケラチン線維で、柔らかい構造をしています
内小皮は、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸が多く、親水性が非常に高いため、この部分から水分を吸収して、キューティクル全体が外側に跳ねて広がります。
すると、CMCが露出して、そこからさらに水分が髪内部に浸透します。また、化学的刺激、物理的刺激により、この部分から多くの内部のタンパク質が流出しやすい層です。
内層は、厚さ10〜40nm、シスチンが多く、下の細胞膜複合体の下部β層の支持体と考えられています。上小皮膜と同じく、元々の細胞膜の部分です。
キューティクルは、シスチン含有量の高い外側が固く、撥水性を備えると共に、内側になるほど親水性が増して、柔らかくなる構造をしています。
細胞膜複合体(CMC)
細胞膜複合体は、キューティクル細胞とコルテックス細胞が内部にケラチン線維を満たす角化過程で、残された細胞膜と細胞内の親水性成分が、ひとつに連結したものです。
▲キューティクルの構造(引用:Skin Research Institute)
細胞膜複合体(CMC)
・キューティクルCMC:キューティクルどうしを繋ぐCMC
・コルテックスCMC:コルテックスどうしを繋ぐCMC
・キューティクルーコルテックスCMC:キューティクルとコルテックスを繋ぐCMC
CMCは、細胞接着作用を持ち、すべてのキューティクル細胞とコルテックス細胞を繋げていて、それは毛根から毛先まで、血管のように連続しています。
CMCは構成成分により3種類に分けられ、キューティクル細胞どうし、コルテックス細胞どうし、キューティクル細胞とコルテックス細胞を繋ぐCMCがあります。
CMCの接着作用の強度は高くないため、CMCが不足するとコルテックス細胞どうしやキューティクル細胞が剥がれ落ち、枝毛、パサつきの原因になります。
細胞膜複合体(Cu CMC)の3層構造
キューティクルどうしを繋ぐ細胞膜複合体(キューティクルCMC)は、厚さが25〜28nmで、3層構造からなり、下部β層、δ層、上部β層に分けられます。
▲キューティクルCMCの詳細な構造(引用:Ashland Specialty Ingredients)
CMCの3層構造
・下部β層:疎水性(脂肪酸、18-MEA)
・δ層:親水性(非ケラチンタンパク質)
・上部β層:疎水性(脂肪酸、18-MEA)
β層は、下部β層と上部β層に分けられますが、構成成分は同じで、上部β層はキューティクルの表面を覆う層のため、毛幹の内側にあるにも関わらず「上部」と呼ばれます。
β層は、キューティクル細胞に共有結合した18-MEA(18メチルエイコサン酸)がメインの脂肪酸からなり、共有結合していないフリーな脂肪酸も存在します。
δ層は、中央に親水性タンパク質、その両側に球状タンパク質、外側に疎水性繊維状タンパク質が取り囲んでいる構造で、非常に高い親水性を持ち、水分や薬剤の通り道になります。
キューティクルの撥水性と親水性
毛幹の一番外側を覆っているのは、上小皮膜の表面に共有結合している、CMCの上部β層である18-MEAという脂肪酸や、フリーの脂肪酸です。
▲キューティクルの表面構造(引用:University of Iowa)
脂肪酸である18-MEAは、親油性のため撥水作用があり、少しの水滴なら簡単に弾き、摩擦を減らす作用もあるので、髪の櫛通りや手触りを滑らかにする役割を持ちます。
髪の撥水作用はこの18-MEAによるものですが、キューティクルの切れ目では、親水性が高い内小皮が露出しているため、時間経過と共にそこから水分が吸収されます。
18-MEAは、紫外線や洗髪、ブラッシング、ドライヤーの熱などでは、さほど大きな損傷はありませんが、カラーリングなどの化学的刺激では簡単に剥がれてしまいます。
カラーリングを1回するだけで18-MEAの8割が、3回するとほぼ完全に喪失してしまい、毛髪表面が親水化し、髪が引っ掛かりやすく、手触りが悪くなる原因になります。