ここでは、TRPチャネルという特殊なイオンチャネルについて解説します。
TRPチャネルとは
感覚神経の無髄C線維にあるポリモーダル受容器には、さまざまな受容体やイオンチャネルが発現していますが、その中にあるのがTRPチャネルというイオンチャネルです。
TRPチャネル(一過性受容体電位型チャネル)には多く種類があり、それ単体でさまざまな温度や痛み、酸、化学物質など多数の刺激を受け取ることができます。
▲TRPスーパーファミリー(引用:Science of Kampo Medicine/改)
TRPチャネルは、TRPV、TRPC、TRPM、TRPP、TRPML、TRPA、TRPNの7つのグループがあり、ヒトではTRPNを除く6グループ、合計27種類あることが分かっています。
これらのイオンチャネルは、それぞれ作用する刺激や物質などが異なり、中でも温度を感知することができるチャネルを「温度感受性TRPチャネル」と呼びます。
温度感受性TRPチャネルには、TRPV1、TRPV2、TRPV3、TRPV4、TRPM2、TRPM4、TRPM5、TRPM8、TRPA1の9つがあり、それぞれ感知する温度が異なります。
温度感受性TRPチャネル
温度感受性TRPチャネルは、チャネルごとにさまざまな温度を感知することができ、また感知する温度にもある程度の幅があります。
▲TRPチャネルの温度変化による活性化の違い(引用:The University of Iowa/改)
TRPA1は17℃以下、TRPM8は25~28℃、TRPV4は27~35℃、TRPV3は32~39℃、TRPV1は43℃以上、TRPV2は52℃以上などのようになっています。
ここで思い出してほしいのが、ヒトが温度の刺激である「温刺激」から、痛みの刺激に代わる「侵害刺激」の温度で、43℃以上と15℃以下でした。
そして、TRPV1はその43℃以上、TRPV2が52℃以上で、TRPA1は17℃以下で活性化されるため、これらのTRPチャネルは43℃以上、15℃以下になると痛みの刺激に変わります。
つまり、TRPV1とTRPV2、TRPA1は、「温度」を感知しつつ、「痛み」も感知するという、両方の感覚器受容器ということになります。
そして、無髄C線維の自由神経終末には、TRPV1とTRPA1は一緒に発現している場合が多く、感知した温度を「痛み刺激」として、脳へと送っています。
TRPチャネルを活性化させる物質
また、TRPチャネルは温度だけに反応するのではなく、機械的刺激や酸刺激、化学物質など、さまざまな刺激で活性化されるのです。
下記の表は、温度感受性TRPチャネルを活性化させる物質をまとめたものです。
▲温度感受性TRPチャネルの性質と主な発現部位、関連疾患(引用:漢方医学)
TRPV1は43℃以上の熱だけではなく、機械的刺激や酸刺激、唐辛子のカプサイシン、生姜のジンゲロール、黒コショウのピペリンなどでも活性化されます。
TRPM8は、25~28℃で活性化される冷刺激受容体で、ミントの成分であるメントールなどでも活性化され、冷刺激を受容します。
また、TRPA1は、17℃以下の例刺激やワサビのアリルイソチオシアネート、シナモンのシンナムアルデヒド、ニンニクのアリシン、青魚のDHA、乳酸などでも活性化されます。
上記の表を見ても分かる通り、TRPチャネルを活性化させる物質には、植物由来のファイトケミカルが多く、それらを食べることで、ヒトの身体は刺激を受けているのです。
TRPV1とは
TRPチャネルの中で、最初に発見されたのが、カプサイシン受容体と呼ばれるTRPV1で、最も盛んに研究されているTRPチャネルです。
▲TRPV1チャネルを活性化させる物質(引用:基礎生物学研究所/改)
・温度:43℃以上
・機械的刺激:痛み刺激
・酸:pH6.0以下
・浸透圧:細胞外での上昇
・リガンド:サブスタンスP、神経成長因子、炎症関連メディエーター
・リガンド:カプサイシン、ジンゲロール、ピペリンなど多数
TRPV1が通すイオン
・Na+(ナトリウムイオン)
・Ca2+(カルシウムイオン)
TRPV1は、43℃以上の熱刺激や機械的刺激、pH6.0以下の酸刺激、唐辛子のカプサイシン、生姜のジンゲロールなど、実に多数の刺激を感知し、Na+とCa2+を通します。
つまり、TRPV1は、温度感受性、機械的刺激依存性、酸感受性、リガンド依存性、Na+、Ca2+透過性イオンチャネルという、一風変わったチャネルなのです。
そして、これらの刺激のいずれかがTRPV1に作用すると、イオンチャネルが開いてNa+とCa2+を細胞内に通し、活動電位を発生させて、全て「痛み」として感知されます。
唐辛子を食べると「辛さ」より、ヒリヒリとした「痛み」を覚えますが、これは舌の感覚神経のTRPV1がカプサイシンにより活性化され、痛みの信号として感じ取るためです。
TRPチャネルの作用温度は変化する
TRPV1はさまざまな条件で活性化されますが、複数の刺激が同時に作用したり、TRPV1自体がリン酸化されると、43℃という作用温度が大幅に変化することが分かっています。
▲炎症関連メディエーターによるTRPV1の感作(引用:漢方医学)
例えば、TRPV1がカプサイシンの刺激を受けると、通常なら反応しない30℃程度の熱でも活性化されて、Na+、Ca2+の流入を引き起こし、痛みを感じます。
唐辛子を食べた後に熱いお茶を飲むと、舌が余計にヒリヒリして痛みを感じたり、逆に冷蔵庫で冷ましたカレーは、あまり辛く感じなかったりするのはそのためです。
また、ATPやプロスタグランジンE2などの炎症関連メディエーターがポリモーダル受容器に作用すると、タンパク質リン酸化酵素が活性化され、TRPV1がリン酸化されます。
すると、こちらでもTRPV1の活性化閾値が大幅に下がり、上の図のように30℃程度の熱を受けても、イオンチャネルが開き、痛みが増強されるのです。
また、TRPM8は25~28℃の温度で活性化されますが、ミントの成分であるメントールが作用すると、今度はその活性化閾値が上がり、より高い温度でも活性化されます。
アイスクリームなどでよくミントが使われているのは、感覚神経のTRPM8に作用することで、より冷感を感じやすくしているのです。