さて、ここでは毛幹や毛包の素となる「表皮」について解説します。
表皮の4層構造
皮膚の最上層である表皮は、主に角化細胞(ケラチノサイト)から構成される層で、厚さは0.05mm〜0.2mmほどになり、さらに細かく分類すると4〜5層になります。
一般体表型(頭皮型)の表皮構造
・基底層:1層(基底細胞、色素細胞、メルケル細胞)
・有棘層:5~10層(有棘細胞、ランゲルハンス細胞)
・顆粒層:2~3層(顆粒細胞)
・角層:約10層(角質細胞)
▲表皮の断面H-E染色(引用:新しい皮膚科学)
一般体表型や頭皮型の表皮は、下層側から、基底層が1層、有棘層が5~10層、顆粒層が2~3層、角層(角質層)が約10層の4層構造に分けられます。
また、手掌型の表皮では、顆粒層と角層の間に淡明層という透明な層があります。
そして、表皮と真皮が接する部分は波打つようにうねっていて、表皮が真皮側に入り込んでいる部分を表皮突起、真皮が表皮側に入り込んでいる部分を真皮乳頭と呼びます。
このうねった構造により、表皮と真皮はしっかり結合しやすくなり、表皮は基底膜という膜を隔てて、固定結合であるヘミデスモソームという構造で真皮と繋がっています。
表皮の細胞は、角化細胞が約95%とほとんどを占めますが、それはすべて体内と体外を隔てる角層という人体の防御機能を作り出すためのものです。
残りの約5%は、基底層にある色素細胞(メラノサイト)とメルケル細胞、顆粒層にあるランゲルハンス細胞などからなります。
角化とターンオーバー
表皮のほとんどを占める角化細胞は、その成長過程で細胞内にケラチンや脂質を産生することで、体液保持、体内保護に適した形態へと分化していき、その呼称が変化します。
▲角化細胞の分化とターンオーバー(引用:第一三共ヘルスケア)
角化細胞は主に基底層で分裂を繰り返し、上層へと移行しながら、基底細胞、有棘細胞、顆粒細胞、角質細胞と名前を変えていき、最後は垢となって剥がれ落ちます。
この角化細胞の成長過程を「角化」と呼び、基底細胞から角質細胞となって剥がれ落ちるまでのサイクルが「ターンオーバー」と呼ばれるものです。
ターンオーバーは、基底細胞の分化に14日、そこから有棘層と顆粒層を経て角層へ移行するまでで14日、角層から剥がれ落ちるのに14日ほどかかり、合計で42日程度です。
美容系の資料で、ターンオーバーが「28日間」と言われるのは、基底細胞が分化し終えてから剥がれ落ちるまでの期間のことで、上記の細胞単位とは異なる日数になります。
表層部まで来た角質細胞は、皮脂膜と混じり合って垢やフケとして剥がれ落ち、部屋を舞う塵や埃の約半分がその角質細胞と言われ、気付かぬうちに剥がれているのです。
基底層
基底層を構成する基底細胞は、基底膜に対して縦に張り付くように1列に並び、円柱状又は立方状の形をしているため「円柱細胞層」とも呼ばれます。
▲表皮下層と真皮上層部の図(引用:national cancer institute)
基底細胞は、真皮乳頭を流れる毛細血管から流れ込んだ酸素や栄養素を元に、盛んに細胞分裂を繰り返し、生み出された新しい細胞を上層部へと送り出します。
また、基底細胞の間には色素細胞が点在し、細胞内でメラニン顆粒を含んだメラノソームを生成しては、隣接する基底細胞や有棘細胞にメラノソームを提供します。
それを受け取った細胞は、メラノソーム内のメラニンを核の上部へと移行させて、核帽(メラニンキャップ)を作り出し、紫外線からDNAを保護する役割を担います。
基底細胞は、基底膜を通して、ヘミデスモソームにより真皮のコラーゲンと結合することで表皮と真皮を強固に繋げ、隣接する細胞とはデスモソームで結合しています。
有棘層
有棘層の有棘細胞は、5~10層ほどの層からなり、基底細胞より少し大きめの多角形の細胞ですが、上層部に移行すると押し潰されるように扁平した形状になります。
▲顆粒細胞層のH-E染色(引用:神戸学院大学/改)
基底細胞と有棘細胞は、隣り合う細胞の間に「細胞間隙」という隙間があり、ここを真皮から染み出た組織液が通ることで、各細胞に栄養分を行き渡らせます。
有棘細胞どうしは、固定結合であるデスモソームにより強固に結合され、これが細胞間に橋を渡しているように見えるため、「細胞間橋」と呼ばれます。
この構造により、栄養分を行き渡らせながらも、皮膚に加わる機械的な外力に対抗することができ、これが「棘」のように見えることから、有棘細胞と名付けられています。
そして、基底細胞ほどではないものの、有棘細胞も細胞分裂を行うため、基底層と有棘層を合わせて胚芽層(マルピギー層)とも呼ばれます。
顆粒層
顆粒層の顆粒細胞は、2~3層の厚さで、有棘層の上層部の細胞が徐々に押し潰され、なだらかに移行する扁平の細胞で、細胞内には顆粒を豊富に含んでいます。
▲顆粒細胞のケラトヒアリン顆粒の分解過程(引用:Trinity College)
有棘層の最上層で、細胞内部に少量のケラトヒアリン顆粒という顆粒が出現し、この顆粒層で一層顕著になるため、その名が付けられています。
ケラトヒアリン顆粒は、プロフィラグリンというタンパク質を多く含み、角層への移行過程でチロシンキナーゼなどの酵素でフィラグリンに分解されます。
その後、角層で、フィラグリンが細胞内のケラチン繊維を束ね、その後、ピロリドンカルボキシル酸、ウロカニン酸などに分解されて、これが天然保水因子となります。
また、細胞内には層板顆粒(オドランド小体)というセラミドなどの資質を含んだ5層構造の顆粒が出現し、角層移行時に細胞外に放出され、細胞間脂質として機能します。
顆粒細胞は、オクルディンというタンパク質が密着結合により細胞同士を密着に繋げ、水分や細胞外液の外部への漏出、外部からの水分や異物の侵入を防いでいます。
角層
角層の角質細胞は、扁平な細胞が落ち葉を敷き詰めたように約10層ほど積み重なり、アポトーシスにより核や細胞内小器官が完全に消失した死細胞です。
▲角層の構造(引用:新しい皮膚科学)
角質細胞の細胞膜は非常に厚く、その内側はインボルクリンやロリクリンなどのタンパク質を含んだ周辺体と呼ばれる構造で強化され、内部はケラチン繊維で満たされています。
また、角質細胞の間には細胞間脂質が満たされて、細胞どうしを接着させ、また細胞どうしはデスモソームが変化したコルネオデスモソームという構造により強固に結合されます。
これらの構造が、外部から加わる物理的刺激、化学的刺激に対し、強固に対抗するのです。
ケラチン線維内には、ピロリドンカルボキシル酸、ウロカニン酸などの吸水性アミノ酸が天然保湿因子として、保水機能や紫外線吸収機能を担います。
また、細胞間脂質は、顆粒層の層板顆粒から放出されたセラミド、コレステロール、遊離脂肪酸などから構成されますが、細胞どうしの接着と共に皮膚の保湿も担っています。
また、インボルクインは細胞間脂質を整然と配列させる役割も担いますが、このインボルクリン遺伝子に異常が生じると、毛幹ではくせ毛を発症する原因になります。
角質細胞が表層部まで達すると、カリクレイン関連ペプチダーゼという酵素がコルネオデスモソームを分解し、ステロイドスルファターゼなどの酵素が細胞間脂質を分解して細胞接着を取り除きます。
すると、角質細胞は徐々に剥離し、垢やフケとして排出されます。つまり、角層は勝手に剥がれ落ちるのではなく、分解酵素が意図的に剥がしているのです。
基底膜
基底膜は、表皮と真皮を隔てる薄い膜で、厳密には透明体や基底板に分かれます。
▲基底膜の構造(引用:新しい皮膚科学)
基底版は厚さ60~80nmで、Ⅳ型コラーゲン、ラミン332などのタンパク質と、ヘパラン硫酸など多糖類で構成されます。
一方、透明体は基底細胞と基底板の間の部分で、ラミニン332やヘパラン硫酸、フィブロネクチンやプロテオグリカンなどの糖タンパク質などが存在します。
基底細胞はヘミデスモソーム構造により17型コラーゲンと結合し、17型コラーゲンは透明体を貫通して、基底板と結合しています。
基底板の下には、Ⅶ型コラーゲンから構成される係留細線維がフックのように、真皮のⅠ型、Ⅲ型コラーゲンとを強固に結合しています。
基底膜の膠原線維
基底膜を主に構成するのはⅣ型コラーゲンですが、これは真皮の主成分であるコラーゲン線維の一種で、一般的な繊維状ではなく、シート状になっているタンパク質です。
▲Ⅳ型コラーゲンのα鎖(引用: Vanderbilt University School of Medicine)
後ほど解説しますが、コラーゲンはα鎖と呼ばれる1本のポリペプチド鎖が3本集まり、三つ編みのように右巻き螺旋構造のプロコラーゲンを構成することから始まります。
Ⅳ型コラーゲンのα鎖はα1~α6の6種類あり、基底膜を構成するのは、α1鎖が2本とα2鎖が1本のグループと、α5鎖が2本とα6鎖が1本のグループです。
この2つのグループのプロコラーゲンどうしが結合することで基底膜を構成しますが、この構造は毛包の硝子膜においても同様です。