ここでは、皮膚の付属器である汗腺と脂腺、感覚受容器について解説します。
皮膚の付属器
皮膚の真皮や皮下組織には、膠原線維や脂肪組織の間に、体内の恒常性を維持するためのさまざまな付属器が存在していて、これが汗腺や脂腺、毛器官、感覚受容器などです。
その中で、毛器官は次の章にまわすとして、ここでは汗腺、脂腺、感覚受容器について解説することにします。
▲汗腺と脂腺、毛器官(引用:あたらしい皮膚科学)
汗腺は、全身に分布するエクリン(汗)腺と、特定部位だけに存在するアポクリン(汗)腺の2種類があり、血液から水分をこしとって汗を作り出し、表皮に送り出します。
エクリン腺は、作り出した汗が蒸発する時、気化熱の作用で体温を下げる働きを担い、アポクリン腺は、哺乳類のフェロモンを分泌する芳香腺が退化したものと考えられています。
脂腺は、毛器官に付属する毛脂腺と、皮膚に直接開く独立脂腺があり、皮脂を作り出して皮膚表面で汗腺の汗や皮膚常在菌と混ざって皮脂膜を形成し、皮膚の保湿などに働きます。
皮膚の感覚受容器には、メルケル盤やマイスナー正体、クラウゼ小体、自由神経終末などが点在し、皮膚に加わる触覚や圧覚、痛覚、痒覚、温度覚などを感知します。
エクリン腺
エクリン腺は、唇や亀頭以外のほぼ全身に約300万個存在し、手の平や足の裏、わきには特に多く、胸や腹、背では少ないものの汗腺が大きく発汗量が多いという特徴があります。
汗を作り出す部分はコイル状に巻かれた糸球体と呼ばれる部分で、真皮深層や皮下組織に存在し、そこから導管によって上行し、表皮部分では再度コイル状に巻いて表皮に開きます。
▲エクリン腺の構造(引用:Biomicrofluidics)
感覚神経が体温上昇を感知すると、視床下部の体温調節中枢の媒介により交感神経が活性化され、神経終末からアセチルコリンが分泌されてエクリン腺に伝えられます。
エクリン腺は糸球体から血液の血漿や間質液を受け取って作られ、水分の他に、塩化ナトリウム、カリウム、重炭酸塩、ブドウ糖、尿素、尿酸などの有機物も含みます。
そのため、尿を作る腎臓と同じように、道管中の管腔細胞によって、人体に重要なNa+やCl-などのミネラルの再吸収が行われ、汗の成分だけを体外に放出します。
液体が蒸発(気化)する時は周囲の熱を奪う作用があり、これを気化熱と呼びますが、皮膚表面に出た液体の汗が蒸発することで、皮膚温が下げられ、結果的に体温が下がります。
エクリン腺は外分泌腺の中では最も多くの分泌量を誇り、一日に平均700ml、猛暑時や激しい運動時などは最大10Lの汗を排出し、最も効率的な体温調節装置なのです。
その他にも、エクリン腺は過剰な塩分の排出の補助、皮膚表面の保湿、サイトカインによる皮膚の感染防御、皮膚表面の微生物の洗い流しなどの作用も担っています。
汗腺の進化と退化
実は、エクリン腺は系統発生学的には新しい汗腺で、恒温動物が体温を一定に保つ働きを担いますが、鳥類は持たず、他の哺乳類も足底など身体の一部にしか存在しません。
全身にエクリン腺を持つのが人類と類人猿ですが、類人猿の全身を覆う毛は発汗の妨げになり、人類はその体毛を失うことで、エクリン腺の機能を最も発達させた動物なのです。
一方、他の哺乳類に発達しているのがアポクリン腺で、体温調節機能の効果は薄いものの、フェロモンと呼ばれる臭いを発し、それを嗅ぎ分ける嗅覚も発達しています。
ネズミやタヌキなど、多くの哺乳類は夜行性であり、視覚は比較的弱く、鋭敏な嗅覚を重視して行動し、臭いによって他の固体とコミュニケーションを取っています。
木々などに尿を放出したり、身体をこすりつけたりすることで自分の縄張りや健康状態、繁殖状態を主張しますが、それは自分の身体から発せられる臭いを付けているのです。
臭いは、尿という液性因子の他に、フェロモンという揮発性因子があり、それを放出するアポクリン腺は毛器官に付属し、空気に多く触れる毛幹からフェロモンを周囲に発します。
▲雄ヤギのプライマリーフェロモンの作用(引用:東京大学大学院農学生命科学研究)
フェロモンのタイプは2つあり、リリーサーフェロモンは同種の他の固体に対し直接的な行動を短時間で引き起こすもので、自身の縄張りを示したり、仲間に危険を伝えたりします。
プライマーフェロモンは、他の固体に対し、間接的に生殖機能などに長期的な影響を与えるもので、雄のフェロモンが雌の排卵を誘発したり、雌の発情を促したりします。
また、同じアポクリン腺でも、体温調節機能を発達させた哺乳類もいて、特に馬は全身のアポクリン腺から汗をかくことで、体温の上昇を防ぎ、長距離を走ることができます。
ヒトは、エクリン腺の方を発達させて、邪魔な毛を退化させたことで、体温調節をより効率的に行うようになったため、毛に付属するアポクリン腺も退化してしまいました。
ヒトは昼行性であり、視覚が発達し、言語によってコミュニケーションを取るため、フェロモンを発するアポクリン腺や、それを受け取る嗅覚の鋭敏さも不要になったのです。
といっても、これらの機能は退化しただけで、完全になくなった訳ではないため、ヒトでもフェロモンの効果は確認されていいますが、その化学物質は特定されていません。
アポクリン腺
ヒトのアポクリン腺は、皮膚のわきや外陰部、乳輪、鼻翼などの特定の部位に多数存在しますが、幼少期は未完成で、思春期に分泌が増える性ホルモンの作用で発達します。
エクリン腺と同じく、コイル状の分泌部には多数の神経と毛細血管が張り巡らされますが、導管部は直線的で、皮膚表面ではなく、毛包部分の脂腺開口部の上方で毛穴に開きます。
▲発汗の種類(引用:classconnection)
アポクリン腺は、その名前の由来である、細胞の一部が千切れることで分泌物を放出する離出(アポクリン)分泌と考えられていましたが、現在ではエクリン腺と同じ開口分泌であることが分かってきました。
アポクリン腺の汗は、トリグリセリドと脂肪酸が豊富な粘稠性の液体で、乳白色で無臭ですが、皮膚の常在細菌と交わることで臭いを発し、ヒトでは腋臭の原因になります。
腋臭は、黒人では100%の人に、欧米人では75%の人に見られるのに対し、モンゴロイド人種は少なく、特に日本人では10%程度の人しかありません。
発汗の種類
エクリン腺とアポクリン腺が分泌する汗ですが、これには種類があり、温熱性発汗(体温調節性発汗)、精神性発汗、味覚性発汗の3種類に分かられます。
温熱性発汗は、猛暑時や運動時、食事時などで体温が上昇した時、身体の熱を下げるために働き、最初に額や頭皮に発汗が生じ、その後に全身に広がり、最後に掌や足底に生じます。
精神性発汗は、恐怖や緊張した時などの精神的ストレスに反応する発汗で、まず手の平や足の裏に現れ、皮膚表面に湿り気を与えること摩擦力を増し、緊急時の対応を可能にします。
また汗に含まれる電解質を放出することで、電気抵抗を減少させて緊張を和らげる作用もあるといわれます。
味覚性発汗は、本来は甘味や酸味を感知した時の遺伝的な発汗ですが、広義には唐辛子のカプサイシンなどの温痛覚神経を刺激し、脳が熱いと錯覚した時に顔面に発汗します。
温熱性発汗、精神性発汗、味覚性発汗ともに関わるのがエクリン腺で、アポクリン腺は、情緒刺激で発汗する精神性発汗のみに関わります。
脂腺
脂腺は掌、足底以外の全身の皮膚に存在し、皮脂を産生、分泌する器官で、毛包上部に開く「毛脂腺」と、直接皮膚に開く「独立脂腺」があります。
▲脂腺の種類(引用:pearson education)
殆どが毛に付属する毛脂腺ですが、毛がない部分の唇、頬の粘膜、乳輪、膣、陰茎、亀頭などでは直接皮膚に開く独立脂腺が存在します。
脂腺は数個の円錐形の分泌腺で、外毛根鞘のバルジ領域上部に、毛包と毛幹の開いた隙間に開いていて、立毛筋の収縮により皮脂の分泌が促されます。
脂腺は脂腺細胞の小葉と導管からなり、脂腺細胞が分裂した娘細胞は、脂肪滴が充満して破裂し、内部の細胞成分と共に脂質が分泌される、全分泌を行います。
発達した脂腺が集まった部分を「脂漏部位」と言い、頭皮、顔面の全額、眉間、鼻翼、鼻唇溝などのTゾーンや、胸骨部、わき、外陰部などがあります。
皮脂と皮脂膜
脂腺から分泌されるのが皮脂で、トリグリセリド、ワックスエステル、遊離脂肪酸、スクワレン、コレステロールなどからなります。
この皮脂が表皮に分泌されると、エクリン腺から分泌された汗などの水分、皮膚常在菌と混じり合い「皮脂膜」を形成します。
トリグリセリド、ワックスエステルは皮膚常在菌により分解され、オレイン酸、酢酸などの有機酸になり、皮膚表面をpH5.5の弱酸性に保ちます。
この弱酸性という環境は殺菌作用を持ち、有害物質の侵入防止、病原菌の繁殖防止、紫外線の防御、水分蒸発の抑制などのバリア機能を有し、角層に柔軟性を与えます
また、毛幹が成長する際、キューティクルにこの皮脂が汲み取られることで、毛に滑らかさや柔軟性をもたらし、水分の蒸発を防ぐ効果もあります。
皮脂量の調節は性ホルモンによって行われ、男性ではテストステロン、女性では副腎アンドロゲンが関与します。
そのため、皮脂の分泌は年齢によって変化し、思春期頃から増加し始め、女性では10~20最、男性では30~40歳でピークを迎えて、それ以降は減少します。
感覚神経と受容器
皮膚は、直接外界と接する臓器ですから、外部刺激を受け取るさまざまな感覚受容器が存在し、特に掌や足底、顔面、外生殖器には豊富に分布しています。
皮膚の感覚受容器
・自由神経終末:皮下組織や真皮、表皮で、痛覚や温度覚、痒覚を受容
・毛包受容器:毛包で、毛幹の動きを受容
・メルケル盤:表皮で、触覚や圧覚を受容
・マイスナー小体:真皮乳頭層で、触覚や圧覚を受容
・クラウゼ小体:真皮で、触覚、圧覚、冷覚を受容
・ルフィニ終末:真皮下層や皮下組織で、持続的な触覚や圧覚を受容
・パチニ小体:真皮下層や皮下組織で、強い圧覚や振動覚を受容
▲皮膚の感覚受容器(引用:McGraw Hill Education)
自由神経終末は、髄鞘が外れた無髄C線維が複雑に枝分かれし、真皮の上層部や乳頭層、または表皮に入り込んで、ポリモーダル受容器で痛覚や温度覚、痒覚などを感知します。
毛包受容器は円形柵状終末とも呼ばれ、自由神経終末が毛包の毛峡部にグルグルと巻き付き、また縦にも伸びた形状をし、刺激に対する順応が早く、毛の動きを感知します。
メルケル盤は、表皮の基底層に存在するメルケル細胞で、軽い接触である触覚を感知し、指、口腔粘膜、毛盤に存在し、自由神経終末がシナプス接続しています。
マイスナー小体は、表皮直下で軽いタッチにも敏感な触覚を感知する楕円状の感覚器で、指先、掌、足の裏、唇、舌、顔、生殖器に多く、有毛部にはあまり見られません。
クラウゼ小体は、真皮に存在する球形の感覚器で、触覚や圧覚、冷覚を感知し、陰核や陰茎亀頭、結膜、口腔内、鼻腔粘膜下に見られます。
ルフィニ終末は、体毛の生えていない真皮深層に見られ、細長い小体が枝分かれした感覚器で、物が皮膚に擦れるなどの持続的な触覚や圧覚を感知します。
パチニ小体は、真皮深層で強い圧覚や皮膚の振動を感知する卵型の感覚器で、掌、足底、外陰部に見られ、皮膚から1cm離れた振動でも感知します。
マイスナー小体、クラウゼ小体、ルフィニ終末、パチニ小体は神経終末が結合組織性の被膜で覆われている受容体で、目や鼻の特殊感覚のようには特化していません。
ちなみに、頭皮に多い感覚受容器は、自由神経終末、毛包受容器、メルケル盤です。
自律神経
皮膚の自律神経は、毛包の立毛筋、エクリン腺、アポクリン腺、血管、グロムス装置、褐色脂肪細胞などに接続していて、これらの器機の調節を行います。
立毛筋は、アドレナリン作動性の交感神経で毛幹を垂直に立ち上がらせ、エクリン腺は、コリン作動性の交感神経で、発汗を促します。
グロムス装置もアドレナリン作動性の交感神経で、前毛細血管括約筋を収縮させ、褐色脂肪細胞は交感神経が豊富に接続され、ノルアドレナリンを分泌し、脂肪の燃焼を促します。
