ここでは、毛を生み出している「毛包」について、毛乳頭や毛母細胞、立毛筋などについて解説していきます。
毛乳頭(DP)
毛乳頭は、真皮から連続する組織が毛幹内部に入り込んだ卵型の形状をした組織であり、繊維成分の膠原線維、細胞成分の毛乳頭細胞からなります。
毛乳頭が放出する細胞成長因子
・インスリン様成長因子-1(IGF-1)
・血管内皮細胞増殖因子(VEGF)
・線維芽細胞増殖因子-7(FGF-7)
・肝細胞増殖因子(HGF)
・トランスフォーミング成長因子(TGFβ) など
毛乳頭は、毛包周囲の結合組織性毛包と同じく、真皮由来の組織であり、疎の膠原線維が走り、少量の毛細血管と神経線維がループ状になって中に入り込んでいます。
入り込んだ毛細血管は、毛乳頭細胞や毛母細胞に酸素や栄養素を送り込みますが、その数は結合組織性毛包の豊富さに比べると、非常に少ないといえます。
また、毛乳頭細胞は線維芽細胞由来であり、ほとんど細胞分裂をすることはなく、ラミニン、Ⅳ型コラーゲンなどの硝子膜の成分を産生します。
また、種々の細胞成長因子を放出して、毛母細胞の増殖や分化、アポトーシスを制御し、またバルジ領域部分の毛包幹細胞に対しても、分化を制御します。
毛乳頭細胞はアンドロゲン受容体を発現していて、思春期に分泌が増えるアンドロゲンにより前頭部や後頭部では脱毛、全身の体毛部では逆に発毛を促します。
毛母細胞
毛母細胞は、毛乳頭の入口部分に分布し、毛包細胞と毛幹細胞の両方に分化することができる、比較的未分化な細胞です。
毛母細胞は、盛んに細胞分裂を繰り返し、内毛根鞘細胞、毛小皮、毛皮質、毛髄質に次々と分化・増殖しますが、外毛根鞘細胞への分化はしないと考えられています。
ヒトの細胞の中で、最も細胞分裂が激しい部位でありますが、その細胞分裂には限界があり、寿命を迎えると、アポトーシス(細胞死)を迎えて、毛包と共に退縮します。
そして、毛母細胞がアポトーシスを迎えると、バルジ領域部分の毛包幹細胞が一段階分化し、新しい毛母細胞が供給されることで、次の毛周期に入るのです。
毛母細胞に対し、細胞分裂を促すか、アポトーシスをさせるかを制御しているのは、その内側に接している毛乳頭細胞からの種々の細胞成長因子による指令です。
毛包色素細胞
毛母細胞の間には、毛包色素細胞(メラノサイト)が存在し、近くの細胞にメラニンを提供し、毛幹に色素を満たします。
毛包色素細胞は、表皮の基底細胞間にある色素細胞との機能の違いはなく、触手を伸ばして毛幹のメデュラ細胞とコルテックス細胞にメラニン顆粒を提供します。
提供されたメラニンは、主にコルテックスの外側の領域に多くなっていて、キューティクル細胞にはほとんど存在しないため、キューティクルは透明です。
メラニンの働きは、表皮の色素細胞と同じであり、紫外線の吸収作用、生体に有害な金属や薬剤、活性酸素を取り込む作用があります。
メラニンは、生体の中では髪に最も多く含まれ、また頭髪は他の部位の毛に比べて非常に成長が早いため、有害な金属や薬剤の排出機能に長けている部位です。
そのため、薬物使用の検査によく利用されますが、黒人やアジア人の髪にはメラニンが多いため、欧米のブロンドヘアより薬物が検出されやすく、不公平だといわれています。
毛包幹細胞、色素幹細胞
外毛根鞘のバルジ領域には、毛母細胞と毛包色素細胞の素となる「毛包幹細胞」と「色素幹細胞」が、17型コラーゲンにより硝子膜に係留されています。
▲毛包幹細胞の働き(引用:Stowers Institute)
毛母細胞や色素細胞は無限に分化・増殖できる訳ではないので、一定の時期を迎えると毛包のアポトーシスが訪れ、毛包が退縮してきます。
その時に、新しい毛母細胞と色素細胞を提供するのが、毛包幹細胞と色素幹細胞の役目であり、両方ともバルジ領域部分に繫ぎ止められ、自身はほとんど増殖しません。
それは、これらの幹細胞が、脂肪細胞や線維芽細胞、毛包幹細胞自体から産生される骨形成タンパク質(BMP)により、細胞の分化が抑えられた休止状態になっているからです。
毛包が成長期から退行期に移行する際、毛乳頭細胞から産生されたTGFβやNogginという成長因子がBMPシグナルを阻害することで、毛包幹細胞がようやく活動を始めます。
また、皮膚が深く損傷した時には、この毛包幹細胞は上方へも移行して、表皮の基底細胞や脂腺細胞にも分化することができる、多能性幹細胞の特徴もあります。
それは、毛包のバルジ領域が表皮より深い位置にあるためであり、表皮が損傷するような非常時には、表皮へ細胞の供給を行う役割も果たしているのです。
立毛筋
立毛筋は、毛包と皮膚表面が鈍角をなす側の、バルジ領域と真皮表層とを接続し、皮膚に対し斜めに生えている毛幹を垂直に立たせるための平滑筋です。
▲立毛筋の働き(引用:朝日新聞デジタル)
立毛筋で毛を立たせる意味
・哺乳類:保温、敵への威嚇
・ヒト:意味を成さない
立毛筋は、外毛根鞘のバルジ領域外側にある結合組織性毛包と、表皮直下の真皮表層とを繋ぎ、幅45~200㎛の円柱状または扁平な平滑筋の束です。
寒さや恐怖なで、交感神経が活性化されてノルアドレナリンが分泌されると、この立毛筋が収縮し、毛幹を垂直方向に立たせ、同時に毛孔部が少し隆起します。
大部分が体毛で覆われた哺乳類では、毛を立たせることにより空気層を厚くし、体温の保持効果や、身体を大きく見せることで敵への威嚇に利用します。
しかし、ヒトは大部分の体毛が退化してしまい、僅かな毛が立ったところで、いわゆる「鳥肌」になるだけであり、立毛筋はほとんど意味を成さなくなってしまいました。
ただ、立毛筋と毛包の間には必ず脂腺が位置しているため、立毛筋が収縮することで脂腺を圧迫し、皮脂の排出を促進する機能は残っています。
なお、眉毛、まつ毛、鼻毛、わき毛は、毛を立たせる意味がない部位であり、それらの毛包に立毛筋は付属していません。
毛包受容器
毛包受容器は、バルジ領域上部と脂腺開口部の間にあり、毛包峡部の周りを取り囲んでいる、触覚を感知する感覚受容器です。
▲毛包受容器と神経線維(引用:理化学研究所 生命機能科学研究センター )
感覚神経の有髄Aβ線維、有髄Aδ線維、無髄C線維は、毛包峡部に達すると、枝分かれして、硝子膜の外面上を取り囲むように輪状に発達します。
そこから表皮に向かって縦に延び、先が膨らんで王冠状になり、さらに発達するとやがては、基底層から円柱細胞層に並ぶメルケル細胞に接続します。
毛包幹細胞部分にはEGFL6と呼ばれる細胞外基質が神経線維の周囲に存在し、毛幹が梃子の原理を果たすことで、触覚機能としての役割を果たしています。
毛髪が成長するほど神経も非常に発達し、毛髪の長さの分だけ外界の触覚を感知する範囲が広がるため、頭髪が重要な感覚機能として働いていることになります。
一方、毛乳頭内にも神経線維は入り込んでいますが、毛包受容器と比べると、その数は貧弱となっています。


