ここでは、毛幹内部の毛皮質であるコルテックスと毛髄質であるメデュラについて解説していきます。
毛皮質(コルテックス)
毛皮質は一般的に「コルテックス」と呼ばれ、平均的な直径80μmの毛幹では、その領域にコルテックス細胞が約250個並び、細胞どうしはコルテックスCMCが繋げています。
コルテックス細胞は規則的に配列され、縦方向ではジスルフィド結合により強固に結合していますが、横の配列はコルテックスCMCのため接着力が幾分弱くなっています。
そのため、毛髪は引っ張りなどの力に対しては非常に強いですが、ダメージなどが続くと、CMC部分で破断して枝毛などになり、これが髪が縦に裂けやすい理由です。
▲コルテックス領域とコルテックス細胞(引用:DEMI COSMETICS)
コルテックス領域
・コルテックス細胞
・Co CMC(コルテックス細胞膜複合体)
コルテックス細胞
・マクロフィブリル(繊維状ケラチンの結晶)
・マクロフィブリル間充物質(球状のケラチン)
・メラニン色素
・天然保水因子(NMF)
・核など細胞小器官の残骸
1つのコルテックス細胞は、幅4μm、高さ100μmという非常に細長い形状をしていて、内部はケラチン線維の束であるマクロフィブリルが数個~数十個ほど縦に並んでいます。
その間を球状のケラチンであるマクロフィブリル間充物質が満たし、ところどころにメラニン色素や天然保水因子(NMF)、核や細胞内小器官などの残骸が点在します。
マクロフィブリルはコルテックス細胞の35~45%を占め、中間径フィラメントであるケラチン線維が縦に規則正しく並び、疎水性が高く、髪に強度をもたらします。
一方、マクロフィブリル間充物質はコルテックス細胞の50~60%を占め、ケラチン線維のポリペプチド鎖が短く、不規則に折れ曲がった球状をし、髪に柔軟性をもたらします。
残りの4%ほどがメラニンで、コルテックス領域の外側に特に多く、紫外線を吸収すると共に、有害金属や薬物をキューティクルから排出します。
3種類のコルテックス細胞
実は、コルテックス細胞にも種類があり、パラコルテックス(傍皮質細胞)、メタコルテックス(中間皮質細胞)、オルトコルテックス(正皮質細胞)の3つに分類されます。
▲3種類のコルテックス(引用:Springer Nature)
オルト(ortho)はギリシャ語で「正規の」、メソ(meso)は「中間の」、パラ(para)は「反対の」の意味で、オルトは「オルソ」と読む場合もあります。
これらの違いは、マクロフィブリル内の中間径フィラメント(IF)の走り方の違いで、パラコルテックスは、内部のIFが毛軸方向に対し平行に規則正しく配列しています。
一方、オルトコルテックスはIFが捻じれるように配列していて、メタコルテックスの方はIFがパラコルテックスとオルトコルテックスの中間の捻じれが生じています。
このメタコルテックスはオルトコルテックスに含められることが多く、一般的にはコルテックスは、パラコルテックスとオルトコルテックスの2種類に分類される場合が多いです。
パラコルテックス細胞の特徴
パラコルテックス細胞の形状は、きれいな紡錘形(先のとがった円柱形)をしていて、オルトコルテックス細胞より長さが短いのが特徴です。
▲パラコルテックスとオルトコルテックスの形状の違い(引用:CrylyHairLunge)
パラコルテックス細胞の特徴
・形はきれいな紡錘形で長さが短い
・内部のマクロフィブリルの直径が太く、密にきれいに並んでいる
・内部のマクロフィブリル間充物質は少ない
・構成アミノ酸はシステインが13%と多く、強度や弾力性がある
・疎水性が高いため、水分を吸収しにくい
・細胞間の細胞膜複合体(Co CMC)の量が多い
・パラコルテックス領域側のキューティクルの枚数が多い
細胞内部を埋めるマクロフィブリルは直径が太く、また密に規則正しく、毛軸方向に平行に配列していて、間を埋めるマクロフィブリル間充物質の割合が少なくなっています。
マクロフィブリルのケラチン線維を構成するアミノ酸は、システインが13%と非常に多く、多くのジスルフィド結合を形成しているため、強度や弾力性があります。
また、ケラチン線維が密に配列していて、マクロフィブリル間充物質が少ないため、水分を吸収しにくく、湿度が高い場所でも毛幹の形状が変化することはありません。
そして、細胞間を接着する細胞膜複合体(CMC)の割合が多いため、コルテックスやキューティクルの接着力が高く、枝毛や切れ毛にはなりにくい特徴があります。
また、パラコルテックス領域の外側を覆うキューティクル層は5~6層と多く、これも水分を吸収しにくい要因であり、物理的刺激や化学的刺激にも耐久力があります。
オルトコルテックス細胞の特徴
一方、オルトコルテックス細胞は、歪んだいびつな紡錘形をしていて、パラコルテックス細胞より長さがあるのが特徴です。
オルトコルテックス細胞の特徴
・形はいびつな紡錘形でパラコルテックス細胞より長さがある
・内部のマクロフィブリルの直径が細く、疎で、螺旋状に並んでいる
・内部のマクロフィブリル間充物質が多い
・構成アミノ酸はシステイン10%と少なめで、強度や弾力性が劣る
・親水性が高く、水分を吸収しやすい
・細胞間の細胞膜複合体(Co CMC)が少ない
・オルトコルテックス領域側のキューティクルの枚数が少ない
内部に配列されたマクロフィブリルは直径が細く、また捻じれるように螺旋状に配列され、その間を埋めるマクロフィブリル間充物質の割合の方が多い特徴があります。
また、マクロフィブリルのケラチン線維を構成するアミノ酸は、システインの割合が10%と少ないため、ジスルフィド結合が少なく、毛幹の強度や弾力性が劣ります。
また、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシンなどの極性アミノ酸の割合が多く、マトリックス間充物質も多くなっていて、水分を非常に吸収しやすくなっています。
水分を吸収すると、髪の水素結合が容易に切断されて毛幹が伸び、パラコルテックスとの伸びの差が生まれて、髪がカールし、梅雨の時期はくせ毛が酷くなってしまうのです。
また、オルトコルテックスどうしを繋ぐ細胞膜複合体(CMC)の割合が少なく、コルテックスやキューティクルの接着力が弱いため、切れ毛、枝毛の原因になりやすい状態です。
そして、オルトコルテックス領域側のキューティクル層は、1~2層と少なくなっていて、物理激刺激、化学的刺激によるダメージを受けやすく、水分も侵入しやすくなっています。
くせ毛のコルテックス配置
さて、パラコルテックスとオルトコルテックスは、毛幹内に混在して存在しているのはなく、毛幹内の片側にそれぞれの細胞が集まって存在しています。
つまり、毛幹の断面で見ると、オルトコルテックス細胞が集まった領域が片側に集まり、反対側には、パラコルテックス細胞が集まった領域があるのです。
▲くせ毛のカーブ構造(引用:The Company of Biologists)
すると、どうなるかというと、オルトコルテックス細胞はパラコルテックス細胞より長さがあるため、毛幹の縦断面で見ると、オルトコルテックス領域側が長くなります。
それに比べて、パラコルテックス領域は短いため、オルトコルテックス領域側との長さの違いが現れ、毛幹がパラコルテックス領域を内側にして曲がってしまうのです。
これが「くせ毛」として現れる原因です。
つまり、くせ毛はカールの外側にオルトコルテックス細胞が多く、カールの内側にパラコルテックス細胞が多いという、偏った配置になっているのです。
また、オルトコルテックス領域側のキューティクルの枚数が少なく、オルトコルテックス細胞自体が水分を吸収しやすいため、湿度が高いと内部の水素結合が切れやすくなります。
その結果、元々長いオルトコルテックス細胞がさらに伸びることになり、パラコルテックス細胞との長さの違いが大きくなることで、くせ毛がより強く現れるのです。
コルテックスCMCの構造
コルテックス細胞どうしを繋げる細胞膜複合体(Co CMC)は、厚さ25〜28nmで、3層構造からなり、「下部β層」、「δ層」、「上部β層」に分類されます。
▲コルテックスCMCの構造(引用:Ashland Specialty Ingredients)
CMCの3層構造
・下部β層:親油性(脂肪酸、セラミド、硫酸コレステロールなど)
・δ層:親水性(非ケラチンタンパク質など)
・上部β層:親油性(脂肪酸、セラミド、硫酸コレステロールなど)
キューティクル細胞同士を繋ぐキューティクルCMCと同じく、中央のδ層は非ケラチンタンパク質の親水性タンパク質や天然保水因子などで、水分や薬剤の通り道となっています。
β層は、さまざまな飽和脂肪酸からなる親油性の層で、18-メチルエイコサン酸、パルチミン酸、オレイン酸、セラミド、硫酸コレステロールなどからなります。
毛髄質(メデュラ)
毛髄質は「メデュラ」と呼ばれ、毛幹の中心部を通っていて、その内部は竹のような節があり、空洞になっている層です。
▲毛幹の横断面(左)とメデュラの縦断面(右)の画像(引用:permanence)
メデュラは、毛母細胞から分化した状態では、直径4μmほどの比較的大きめの丸い形の細胞で、細胞内にトリコヒアリン顆粒を生成し、増殖していきます。
しかし、角化は非常に遅く、コルテックス側からのケラチン線維が侵入し、竹の節のような構造を作り出し、その後メデュラ細胞がアポトーシスを迎えて、内部が空洞状になります。
その構造が、毛髪に強度をもたらし、毛髪の軽量化、断熱効果、膨潤や収縮する際の緩衝領域になるなどといわれていますが、詳細な作用は分かっていません。
メデュラは、構成アミノ酸にグルタミン酸が多く、ジスルフィド結合をほとんど含まない非ケラチンタンパク質で、少量のメラニン色素や、金属なども含まれます。
メデュラの形成には個人差や人種差が大きく、欧米系の細い毛髪にはメデュラは形成されず、日本人のようなモンゴリアン系でも軟毛には見られず、太い硬毛にのみ形成されます。