基礎知識編

【基礎知識編26】毛周期について

ここでは、毛の生え変わりのサイクルである「毛周期」について解説していきます。

毛器官は発生を繰り返す

心臓や肝臓など身体のあらゆる器官は、受精卵から細胞分裂する過程で、一度だけ形態形成が行われると、その後、細胞分裂はほとんど行われません。

しかし、消化管などの粘膜細胞、血球細胞、皮膚の角化細胞、毛器官などは、外界に接していたり、酷使されたりする組織であり、常に再生産し続ける必要があります。

消化管の粘膜細胞、血球細胞、皮膚の角化細胞は、古くなるとタンパク質分解酵素などの働きで剥がれ落ちたり、マクロファージに貪食されたりして処理されます。

一方、毛器官の場合は、根元の毛包部分が細胞死を起こし、タンパク質分解酵素が働いて毛包が退縮して脱毛し、次の新しい毛幹を生み出すという作業を行います。

胎児期に、約500~600万個もの毛器官が完成しますが、バルジ領域下部の移行部においては、成人になっても成長と退縮を行い、毛器官は発生の過程を繰り返すのです。

毛周期とは

毛器官が、成長と退縮を繰り返す一定の周期を「毛周期(ヘアサイクル)」と呼び、頭髪では3~6年間ほどという長期間に及びます。

▲毛周期(引用:Cambridge University Press)

毛周期は、毛髪が盛んに成長する「成長期」、毛髪の伸びが止まり毛包が退縮する「退行期」、毛包の活動が完全に休止する「休止期」に分けられます。

また、成長期の初期は、新しい毛幹が作られ、同時に古い毛幹が抜けて脱毛するため「脱落期」と呼ぶ場合もあり、成長期と区別することもあります。

頭髪では、成長期が3~6年、退行期が2~3週間、休止期が2~4ヶ月続きますが、眉毛やまつ毛は成長期が30~45日、休止期は100日程度と部位によってかなり異なります。

毛幹の長さは、成長期の長さで決まるため、頭髪は非常に長く伸び、眉毛やまつ毛はある程度成長すると抜けてしまうため、毛の長さが短いのです。

また、各期間に移行する際は、毛乳頭細胞から種々の細胞成長因子が放出され、毛母細胞に分裂や増殖、アポトーシスを促して、毛包と毛幹の成長を制御しています。

毛母細胞がアポトーシスを迎えると、毛包幹細胞から新しい毛母細胞が供給され、次の毛周期に入りますが、頭髪では一生の内、それを40~50回繰り返します。

成長期

成長期(Anagen)は、その名の通り、毛母細胞と外毛根鞘細胞の細胞分裂が盛んに起こり、毛包が肥大化し、毛幹が次々と形成され、毛が長く伸びていく時期です。

頭髪の成長期は、男性で3~5年、女性で4~6年続き、85~95%(約8万5000~9万5000本)の毛包がこの期間にあたります。

毛乳頭細胞から、IGF-1、HGF、KGF、VEGF、GDNFなどの成長期を維持する細胞増殖因子が放出され、毛母細胞に細胞分裂を促し、成長期を維持します。

毛母細胞は、18時間に1回という非常に速いサイクルで細胞分裂を繰り返し、毛髄質・毛皮質・毛小皮である毛幹と、それを取り囲む内毛根鞘細胞へと分化していきます。

同時に、毛包幹細胞由来の外毛根鞘細胞が次々と増殖し、毛包が皮下組織の奥深くへ、さらに横方向にも肥大することで、上下左右にと大きく成長することになります。

退行期

退行期(Catagen)とは、毛母細胞の細胞分裂が止まり、アポトーシスが起こり、毛包全体が委縮していく時期です。

退行期は2~3週間続き、頭髪の約1%(約1000本)がこの状態であり、最初にメラニンの生成が止まるため、毛幹の下端部は白いままになります。

毛乳頭細胞からのTGF-β1/β2、FGF5、TNFα、NTR、VDR、Hairlessなどの細胞成長因子を受けると、まず最初に毛包色素細胞が委縮してメラニンの合成を止めます。

その後、内毛根鞘が消失し、毛母細胞が細胞分裂を止めて、アポトーシスが起こり、そのまま角化して毛幹に取り込まれます。

次に外毛根鞘が委縮し、毛包全体がバルジ領域まで引き上げられ、上皮索と呼ばれる細長い構造体となります。

一方、硝子膜はそのまま残り、毛包が退縮する中で圧縮されてゼリー状になり、毛根に付着します。

休止期

休止期(Telogen)は、毛包がバルジ領域まで退行している状態で、細胞の増殖が完全に止まっている時期です。

毛包細胞は、バルジ領域まで引き上げられたまま、そのまま活動を停止し、その期間は約2~4ケ月続き、毛髪の10%(約1万本)がこの時期に当たります。

毛乳頭細胞からは、BMP6やFGF18などの細胞成長因子が放出されて、休止期が維持され、毛根は棍棒状(棍毛)という形状になり、毛乳頭細胞は不明瞭となります。

また、休止期の全身の体毛における外毛根鞘細胞には、エストロゲン受容体(ER)が高発現していて、エストラジオールの作用により休止期を伸ばす作用があります。

そのため、女性の全身の体毛は、男性に比べると薄くて短いのです。

脱落期(成長初期)

脱落期(Exogen)は、一般的には成長期初期に分類され、新しい毛包が作られ始めると同時に、古い毛が抜ける時期です。

毛乳頭細胞から、STAT3、BMP、WNT、β-catenin/LEF1、Shh、IGF-1、HGF、KGFなど細胞増殖因子が放出されると、休止期だった毛包が成長期へと移行します。

毛包幹細胞から供給されたしい毛母細胞が細胞分裂をし始め、毛乳頭細胞と共に真皮の奥深くへと進行し、これを「二次毛芽」と呼び、発生時の「毛芽」とは区別します。

同時に、古い毛幹にはタンパク質分解酵素が働いて、毛包との接着が弱まり、新しい毛幹に押し出されるように抜け落ちます。

つまり、皮膚の角層と同じように、毛はDNAによってプログラムされ、意図的に抜け落ちるようになっているのです。

毛幹と毛包の前駆細胞は二つある

さて、従来の考え方は、毛幹と毛包を生み出す素は全てが毛母細胞であり、毛母細胞が毛幹と内毛根鞘細胞、外毛根鞘細胞の全てに分化・増殖していると思われていました。

しかし、毛幹と内毛根鞘は上方へと成長するのに対し、外毛根鞘は下方へと成長することで毛包を置く深くへと陥入させるため、逆方向の力が生じていることになります。

▲毛母細胞と外毛根鞘細胞の増殖(引用:Columbia University)

そんな中、アメリカ国立がん研究所などの研究で、「毛幹・内毛根鞘細胞」と「外毛根鞘細胞」は、それぞれ別由来の前駆細胞から生み出されていることが確認されました。

また、コロンビア大学は、バルジ領域と外毛根鞘最外層のタンパク質発現パターンが同じことから、外毛根鞘細胞の円柱細胞層は毛包幹細胞由来であることが分かりました。

このことから、外毛根鞘は、毛包幹細胞から分化した円柱細胞層が細胞分裂を繰り返して多形細胞層となり、毛包を成長させていると考えられます。

まとめると、毛母細胞は毛幹と内毛根鞘という上昇部分だけを生じさせ、外毛根鞘細胞は、毛包幹細胞から分化して自ら増殖し、毛包を下降へと陥入させているということです。

バルジ活性化仮説

さて、休止期から成長期に変わる際、毛包幹細胞は新しい毛母細胞と外毛根鞘細胞の円柱細胞層に分化しますが、毛母細胞の方の供給過程には2つの仮説が考えられています。

▲前周期決定仮説(引用:Columbia University)

一つは、以前の主流だった「バルジ活性化仮説」で、まず退行期に入ると毛母細胞が分裂を停止し、毛乳頭が上昇してバルジ領域に近づき、休止期に入ります。

その後、近づいた毛乳頭細胞とバルジ領域の毛包幹細胞が連携しあって、種々の細胞成長因子を放出することで毛包幹細胞が分化し、新しい毛母細胞を生み出します。

その新しい毛母細胞が分裂・増殖を繰り返して、毛幹と内毛根鞘を生み出しつつ、外毛根鞘の円柱細胞層が分化・増殖し、毛包を真皮の奥深くへと陥入させていきます。

この仮説は非常に理にかなっていましたが、マウスのヒゲの毛包では、毛包の退縮が起こらずに次の成長期を迎えるため、この仮説では説明できないのです。

前周期決定仮説

そこで、現れた仮説が、現在主流の「前周期決定仮説」です。

▲前周期決定仮説(引用:Columbia University)

この仮説は、毛包が真皮深くまで侵入している成長期後期中に、毛乳頭細胞から細胞成長因子が放出され、距離的に離れたバルジ領域にある毛包幹細胞に働きかけます。

すると、バルジ領域の毛包幹細胞が分化し、新しい毛母細胞となって、毛包を下降していき、毛乳頭の隣で「側盤(Lateral disc)」として待機します。

側盤は、その毛周期の毛母細胞にはならず、現在活動中の毛母細胞がアポトーシスを迎え、毛包が退縮していくと同時に上方へと引き上げられます。

しかし、側板はアポトーシスを迎えず、毛乳頭の刺激を受けてようやく、次の毛母細胞としての機能を始め、細胞分裂を繰り返して、毛包を下方へと成長させていくのです。

外毛根鞘細胞の円柱細胞層は毛包幹細胞由来と考えられますから、毛周期後期にて、その円柱細胞層と一緒に、次周期の毛母細胞を送り届けていることは十分考えられるのです。

毛細血管も連動する

また、毛周期の変化に応じて、結合組織性毛包や毛乳頭内の毛細血管網も、発達したり、退縮したりと変化することが確認されています。

▲毛包周囲の血管網の発達と退縮(引用:the node)

一般的に、成人になると新たな血管網はほとんど作られず、それが見られるのは女性の子宮内膜の再生時や授乳期の乳腺組織、失われた組織の修復や癌などの病的な時に限られます。

しかし、発生過程を繰り返す毛包では、毛周期の変化に伴い、毛包周囲の結合組織性毛包や毛乳頭内において、毛細血管の発達と退縮の変化が見られます。

毛周期の成長期には、毛包周囲の毛細血管網が非常に発達し、その密度を増しますが、休止期になると、数が減ってまばらになり、毛乳頭内においても同様の変化が見られます。

血管の発達は、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)による影響が大きく、外毛根鞘細胞、毛乳頭細胞はVEGFを発現し、成長期に毛包周囲や毛乳頭内での毛細血管を発達させているのです。

次へ▶【基礎知識編27】毛幹の構造とキューティクル