基礎知識編

【基礎知識編22】毛包の層状構造

さて、ここからはいよいよ本題の「毛」について解説していきます。

「毛」とは

「毛」は、ヒトの体表面全体の90%の部分に生えていて、全身で約500万本、頭部では約10万本もあります。

「毛」は、胎生期に皮膚の表皮部分が真皮に陥入した毛包から生み出され、毛包の毛母細胞が盛んに細胞分裂を繰り返すことで、毛幹を形成します。

全身の毛の中でも、頭髪の伸びが最も早く、1日0.3~0.4mm、1ヶ月で1cmほど伸びるため、トータルするとヒトは一日で35~40mもの毛を作り出していることいなります。

頭部の有毛部分の面積は約592㎠、毛の密度は高い順に、頭頂部が約199本/㎠、前頭部が約183本/㎠、後頭部が約172本/㎠、側頭部が約130本/㎠となっています。

頭髪では1つの毛穴から2~5本まとめて生えていることが多いですが、1本の毛を生み出すのは1つの毛包だけで、複数の毛包が出口の毛穴を共有しているということになります。

「毛」の役割

毛にはさまざまな役割があり、生える身体の部位によって多少その役割が異なります。

中でも頭髪は、生体にとって最も重要な脳を守る頭部に生えている上、基本的に衣服などで覆われることなく常に外部に露出しているため、さまざまな役割を兼ね備えています。

頭髪の役割
・外力からの頭部の保護
・紫外線からの頭部の保護
・高温や低温からの頭部の保温
・触覚機能による障害物の察知
・金属や薬剤の排出機能
装飾機能
まゆ毛の役割
・雨や汗などの目への侵入防止
・強い光の遮断機能
・表情によるコミュニケーションの手段
まつ毛の役割
・埃などの異物や汗の目への侵入防止
・触覚による目の保護
鼻毛の役割
・埃などの異物の侵入防止
・空気の保湿機能
わき毛の役割
・皮膚への摩擦刺激の緩和機能
・リンパ管の保護機能
・フェロモンの放出機能
陰毛の役割

・皮膚への摩擦刺激の緩和機能
・生殖器官の保護

頭髪の役割は、外力から頭部を保護する機能、メラニン色素により有害な紫外線から頭皮を保護する機能、また他の哺乳類の全身毛と同じように体温の保温機能も有します。

そして、毛包受容器により毛幹の動きを感知して頭部周辺の障害物などを感知し、また、毛幹内のメラニン色素には体内に取り込まれた金属や薬剤を排出する機能もあります。

また、頭髪は角化した死細胞ゆえに人体の中では加工が容易な部位であり、しばしば自己主張の場として利用され、中世ヨーロッパ時代ではヒゲと共に地位や権力を誇示するものでした。

それは、現代でも同様であり、カットやパーマ、カラーリング、縮毛矯正などの技術も発達したこともあり、頭髪は自分の魅力を高める装飾機能としての役割も担うのです。

また、わき毛や陰毛は、皮膚と皮膚が擦れる部分に生えていて、毛が縮れていることにより、皮膚への摩擦刺激を防止し、リンパ管や生殖器官を保護する機能を担います。

毛流とつむじ

毛は、直毛の人もくせ毛の人も同様に、皮膚面に対して垂直ではなく、少し傾いて生えています。

その向きを「毛流」と呼び、基本的に頭から尾(尾骶骨びていこつ)へ、上から下へ、背から腹へ流れるように生えていて、この向きを「毛流」と呼びます。

▲左は身体の前面、右は後面の毛流(引用:Rauber-Kopsch解剖学

それは、ヒトの先祖がまだ四足歩行をしていた哺乳類の時代、歩く時に頭から受ける風に対し、毛が逆らわないよう、また雨水が自然に流れ落ちるように生えていたためです。

そして、毛流の起点となるのが頭頂部のつむじですが、全て尾に向けて生えると頭皮が露出してしまうめ、渦を巻くことで、頭皮の露出を出来るだけ避けようとしているのです。

そして、頭皮全体もつむじの向きで毛が流れているため、前髪では、右巻きの人は右下に向けて生え、左巻きの人は左下に向けて斜めに生えています。

つむじの向きは利き手に左右されやすく、右利きが右巻き、左利きが左巻きの場合が多く、また右巻きの方が優性遺伝で、日本人は55%、欧米では85%が右巻きです。

毛包の部位による名称

「毛」は、皮膚の真皮や皮下組織などの奥深くから生え、毛包(毛嚢)もうのうと呼ばれる構造から生み出され、それぞれの部位に呼び方があります。

▲毛包の構造(引用:あたらしい皮膚科学)

「毛包」の部位による名称
毛孔部もうこうぶ(毛包漏斗ろうと部):皮脂腺が開いた部分から上の部分、毛穴のこと
毛包峡部:もうほうきょうぶ毛包上部の狭くなっている部分
・毛隆起(バルジ領域):毛包中央部の膨らんだ部分
・毛球部:毛包下部で毛乳頭を取り囲んで膨らんだ部分
「毛周期」の変化による呼称
・恒常部:毛周期においても変化しないバルジ領域より上の部分
・移行部:毛周期により退行するバルジ領域より下部の部分
「毛」の部位による名称
・毛幹:表皮から出ている部分の毛
・毛根:皮膚に埋まっている部分の毛

毛包下部は膨らんだ「毛球部」を構成し、その上部は「毛峡部」といって幅が狭まり、この構造により、毛が容易に抜けないようになっています。

途中で、「毛隆起」と呼ばれる膨らんだ部分があり、そこに立毛筋が付属し、その上部の毛穴部分は「毛孔部」と呼ばれ、漏斗状に少し開き、皮膚面より少し盛り上がっています。

毛周期により毛包は成長と退縮を繰り返しますが、バルジ領域より上部は変化することがないため「恒常部」と呼び、それより下部は退行期に消失するため「移行部」と呼びます。

「毛幹」と「毛根」は、表皮の上に見えているか、下に隠れているかで呼び分けています。しかし、研究者の間ではこの分類は適切ではないとしています。

それは、毛根部でも上部は角化して、毛幹部と全く同一の組織であり、実際に海外の文献でも、毛は一律に「hair shaft=毛幹」と称し、毛幹と毛根を区別しないからです。

このサイトでも、「毛」を毛幹と毛根とに区別せず、一律に「毛幹」と呼称します。

毛包の層状構成

毛包は、表皮の角化細胞と同じように、複数の細胞層からなり、周囲には神経線維や毛細血管が走り、脂腺(毛脂腺)、汗腺(アポクリン腺)などの付属器も接続しています。

毛包の層状構成
・結合組織性毛包:膠原線維の層で毛細血管、神経組織が豊富
硝子膜:しょうしまく結合組織性毛包と外毛根鞘とを隔てる透明な膜
外毛根鞘:がいもうこんしょう表皮から連続し、毛包の周囲を包んでいる層
内毛根鞘:ないもうこんしょう毛幹と接し、角化をガイドする層
・毛幹(毛小皮、毛皮質、毛髄質):ケラチン線維で満たされた死細胞
・毛母細胞:毛乳頭に接し毛包や毛幹を生み出す未分化な細胞
・毛乳頭:毛母細胞に細胞分裂を促す司令塔
毛包の付属器など
・立毛筋:毛幹を垂直に立たせる平滑筋
・脂腺(皮脂腺):毛孔部に開く皮脂の分泌腺
・アポクリン腺:わき毛や陰毛に付属する汗腺
・毛細血管:結合組織性毛包の周囲や毛乳頭に入り込む血管
・神経線維:結合組織性毛包の周囲や毛乳頭に入り込む神経

▲毛包の縦断面図(引用:Rauber Kopsch)

毛包は、上皮系成分(表皮由来)が、真皮の奥深くに斜めに入り込むことよって形成され、毛周期が長くなると、さらに皮下組織部分まで深く侵入します。

つまり、毛包の組織構造は、上皮系成分(表皮由来)と結合組織性成分(真皮由来)から構成されることになり、その境目が表皮の基底膜から連続する「硝子膜」です。

上皮系成分は「毛母細胞」「外毛根鞘」「内毛根鞘」「毛幹」で、その外側を取り囲んでいるのが、結合組織性成分の「結合性組織毛包」と「毛乳頭」です。

また、毛には必ずバルジ領域部分に立毛筋」とその上部に「脂腺」が付属し、わき毛や陰毛などの毛には「アポクリン腺」も付属していて、脂腺の上に開きます。

そして、真皮由来と連続する結合組織性毛包と毛乳頭には、真皮と同じように毛細血管と神経線維が走っていて、上皮系成分の毛母細胞や外毛根鞘に栄養分を送ります。

【基礎知識編23】結合組織性毛包、外毛根鞘、内毛根鞘