ここでは、神経伝達の際、神経終末から放出される神経伝達物質について、くせ毛解説編に関わる一部を解説します。
神経伝達物質とは
前の章で説明しましたが、神経伝達物質とは、神経線維上を伝わってきた電気信号がシナプス部分で次の神経細胞や効果器に対し、化学的に情報伝達を行う物質のことです。
神経伝達物質は、神経細胞の細胞体で合成され、シナプス小胞に包まれて神経終末まで運ばれて待機していて、電気信号が伝わってくるとシナプス間隙に放出されます。
▲神経伝達物質の放出と取り込み(引用:Cleveland Clinic/改)
放出された神経伝達物質が、次の神経線維や効果器のイオンチャネルなどに結合することで脱分極や過分極を起こさせ、再度、電気信号として情報が伝わります。
放出された神経伝達物質は、酵素によって速やかに不活性化されたり、前シナプス終末の再取り込みトランスポーターから再吸収され、再利用されたりします。
対象が筋肉などの効果器の場合、神経伝達物質が放出されることにより、効果器の受容体がその信号を受け取り、筋肉を収縮させるなどの反応が起こることになります。
ノルアドレナリン
ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)は、交感神経の節後ニューロンや延髄や橋などの中枢神経で分泌される神経伝達物質であり、副腎髄質から放出されるホルモンでもあります。
同じ副腎髄質から分泌されるアドレナリンは、自身の身に危険が迫った時など「闘争か逃走か」の行動を生み出す作用があり、ノルアドレナリンはそれと似たような作用を持ちます。
自分の身に危険が迫ると、心拍数や血圧を上昇させ、気管が拡張して呼吸数が上昇し、筋肉の血管が拡張し、瞳孔が散大して、とっさの行動が取れるようにしているのです。
ノルアドレナリンもアドレナリンもアドレナリン受容体に作用しますが、アドレナリン受容体はα受容体とβ受容体があり、さらに細かく、α1、α2、β1、β2、β3に分類されます。
▲アドレナリン受容体の種類と作用(引用:Nonstop Neuron/改)
α1受容体は血管平滑筋などに存在し、血管を収縮させて血圧を上昇させ、α2受容体は神経終末に存在しノルアドレナリン自体の放出を抑制させるなどの作用があります。
β1受容体は心筋などに存在して心拍数を増加させ、β2受容体は平滑筋に存在して血管や気管支を拡張させ、β3受容体は脂肪の燃焼を促進させるなどの作用があります。
高血圧の治療薬としてα1遮断薬がありますが、これは血管平滑筋のα1受容体の作用を阻害することで、血管の収縮、血圧の上昇を抑える作用があります。
また、気管支喘息などに使用されるβ2刺激薬は、気管支の気道平滑筋のβ2受容体に作用することで、気管支を拡張させ、呼吸を楽にする作用があります。
NO(一酸化窒素)
一酸化窒素(NO)は、車の排気ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)の一つで、酸性雨や光化学スモッグの原因にもなりますが、体内では逆に有効な働きもします。
NOは、体内において活性酸素の一つではありますが、細菌やウイルスを攻撃したり、血管拡張作用があったり、神経伝達物質としての働きもあります。
無色透明の気体であるNOは、細胞膜透過性があるため、細胞膜受容体を必要とせず、また酸素と急激に結合して二酸化炭素に代わるため、組織での半減期は5秒程度です。
▲NO産生による血管平滑筋の弛緩(引用:University of Pernambuco/改)
運動などで体内の血流が増すと、血管外皮細胞が刺激され、NOS(一酸化窒素合成酵素)が活性化して、アルギニンからシトルリンと共にNOが合成されます。
NOは、血管平滑筋細胞のGC(グアニル酸シクラーゼ)を活性化させることでGTPをcGMP(環状グアノシン一リン酸)に変換し、血管平滑筋を弛緩させ、血流が増大します。
また、NOは神経終末から放出される神経伝達物質でもありますが、他の神経伝達物質とは異り、広い範囲に拡散することで、血管平滑筋に作用し、血管を拡張させます。
CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)
CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)とは、アミノ酸37個からなる塩基性ポリペプチドで、「史上最強の血管拡張物質」と言われています。
甲状腺ホルモンであるカルシトニンと同じ遺伝子から作られる神経伝達物質で、カルシトニンと構造が似ているものの、作用でかなり異なる部分があります。
CGRPは、感覚神経や中枢神経、血管、表皮などにも発現していて、感覚神経では無髄C線維の細胞体で合成され、軸索を通って脊髄側と末梢側の神経終末まで運ばれます。
軸索反射により末梢側の神経終末でCGRPが放出されると、血管平滑筋のCGRP受容体と結合し、cAMPや、血管内皮細胞のNO産生を介して、強力な血管拡張作用をもたらします。
その作用は数時間という間続き、降圧作用ももたらし、サブスタンスPなど他の物質の血管透過性亢進作用を増強することで、血管に対し協調して働きます。
▲片頭痛の仕組み(引用:恩賜財団済生会)
片頭痛の原因として、頭部の感覚神経である三叉神経が何かしらの刺激を受けると、軸索反射により、CGRPが末梢側終末から放出されることにあるのではと考えられています。
CGRPは脳内の血管を拡張させ、タンパク質を漏出させる神経原性炎症を起こし、その痛みが大脳に伝わるため、CGRPの結合を阻害する薬剤が用いられる場合があります。
また、CGRPは脊髄側の神経終末でも放出され、二次ニューロンに情報を伝達しますが、脊髄側の詳しい作用は分かっていません。
SP(サブスタンスP)
SP(サブスタンスP)はアミノ酸11個からなるポリペプチドで、またの名をP物質とも呼び、CGRPと協調して血管拡張作用、血管透過性亢進作用をもたらします。
SPは、中枢神経と末梢神経の神経細胞だけでなく、末梢組織に非神経細胞である血管内皮細胞や種々の免疫細胞、線維芽細胞などにも発現しています。
SPは、無髄C線維の細胞体で合成され、シナプス小胞にくるまれ、CGRPと同様に軸索を通って、脊髄側や末梢側の神経終末に運ばれて待機しています。
▲侵害刺激によるSP放出(引用:九州大学/改)
SPは、細静脈のNK-1受容体に結合し、血管透過性を高めて血漿成分を漏出させると共に、血管内皮細胞のNK-1受容体に結合してNOを産生させて血管を拡張させます。
「血管透過性が亢進する」とは、血管が、通常は通さないタンパク質などの大きな物質を通過させ、浮腫などを生じさせてしまう状態のことです。
また、肥満細胞のNK-1受容体に結合し、細胞内のヒスタミン、LTB4などの炎症メディエーターを遊離させることにより、血管透過性を亢進させます。
一方、好中球、マクロファージ、樹状細胞、T細胞などの免疫細胞のNK-1受容体に結合することで、これらの免疫細胞を活性化させる作用もあります。
SPはCGRPとは異なり、血管透過性亢進作用がありますが、その作用時間はCGRPより短時間で、神経細胞からの分泌はやがて枯渇します。
一方、脊髄側の神経終末でもシナプス小胞からSPが分泌され、遅いシナプス後電位を発生させて、それが持続すると二次ニューロンの興奮性を増強する作用を持ちます。